見積りをしっかりつくろう!
建設業法改正で、現場の見積りはどう変わる?
「言われた金額」で受ける見積りから、「必要な金額」を自分たちで積み上げる見積りへ。
「元請から金額を提示されたから、その金額で受けるしかない」
「材料も人件費も上がっているけど、値上げを言い出しにくい」
「昔からこの単価でやってきたから、今さら変えられない」
建設業の現場では、こうしたことがまだまだあります。
しかし、建設業を取り巻くルールは変わり始めています。
2025年12月、建設業法・品確法・入契法のいわゆる「第三次担い手3法」が全面施行されました。
今回の改正では、適正な労務費の確保や、著しく低い労務費での見積りの禁止、著しく短い工期での契約の禁止など、建設業界の商慣習を変えていくための新しいルールが導入されています。
これは、元請だけに関係する話ではありません。
建設業者、一人親方、職人など、現場で仕事をする私たち一人ひとりに関係する話です。
では、何が変わったのでしょうか。
そして、私たちはこれから何をすればいいのでしょうか。
1.何が変わった? 「安ければいい」から「適正な価格」へ
今回の改正の大きなポイントの一つが、「労務費に関する基準」の導入です。
これは、技能者の経験や技能に応じた適正な賃金が支払われるよう、工事の請負契約の各段階で適正な労務費を確保していこうというものです。
また、今回の改正では、
- 著しく低い労務費等による見積りを禁止
- 原価に満たない金額による契約を禁止
- 著しく短い工期での契約を禁止
- 注文者は、下請から提出された見積書を考慮する
- 資材価格などの上昇リスクを契約前に通知する
- 資材価格高騰時の請負代金などの変更方法を契約書に記載する
といったルールが設けられました。
つまり、これまでの
「上から提示された金額に合わせる」
という建設業界の商慣習から、
「その工事に必要な労務費・材料費・経費を積み上げて、適正な工事金額を決める」
方向へ変えていこう、ということです。
そして大切なのは、こうしたルールを実際の仕事にどう活かすかです。
2.「安い見積り」が仕事を取るための努力ではない
法律や制度が変わっても、現場の商慣習が変わらなければ意味がありません。
例えば、こんなことはないでしょうか?
- 「昔からこの単価だから」と安い単価で仕事を受けてしまう
- 労務費と材料費を「一式」にしてしまう
- 法定福利費を計上していない
- 安全衛生経費を請求していない
- 建退共掛金を見積りに入れていない
- 現場管理にかかる費用を入れていない
- 会社を維持するための一般管理費を計上していない
- 準備や後片付けに必要な日数を考えていない
- 追加工事や工事条件の変更を無料で対応してしまう
- 短い工期を無理に受けてしまう
一人親方であれば、
- 建設国保
- 国民年金
- 一人親方労災
- 安全衛生経費
- 建退共掛金
など、自分自身が負担している費用を十分に見積りへ反映できていないこともあります。
こうした費用を削って仕事を受ければ、最終的には労務費や自分の収入を削ることにつながってしまいます。
ここを変えていきましょう
「安い見積りを出すことが仕事を取るための努力」という考え方から、
「必要な費用をきちんと積み上げ、その根拠を示して請求する」という考え方へ。
これからの建設業では、こうした意識を一人ひとりが持つことが重要です。
3.なぜ「見積書」が重要なのか?
適正な工事金額を確保するためには、まず自分自身が、
「この仕事には、いくら必要なのか」を把握していなければなりません。
そのための出発点になるのが見積書です。
「○○工事 一式○○万円」だけでは、何にいくら必要なのかが分かりません。
労務費はいくらなのか。
材料費はいくらなのか。
安全に仕事をするための費用はいくらなのか。
現場を管理するための費用はいくらなのか。
会社を維持するために必要な経費はいくらなのか。
こうした費用を一つひとつ確認していくことで、自分の仕事に本当に必要な金額が見えてきます。
リーフレットでは、工事費を「直接工事費」と「間接工事費」に分け、労務費、材料費、法定福利費、建退共掛金、安全衛生経費、共通仮設費、現場管理費、一般管理費などを項目別に積み上げる考え方を紹介しています。
4.これからの見積書は「項目別」に積み上げよう
見積りに入れる主な項目
① 労務費
職人・作業員が働くために必要な費用です。
適正な賃金を確保するためにも、まず労務費をきちんと計算しましょう。
リーフレットでは、労務費に関する基準や公共工事設計労務単価などを参考に、工事の内容や施工条件に応じて労務費を算出する考え方を紹介しています。
② 材料費
実際に使用する材料の数量・単価を確認し、適正に計上します。
材料価格が上昇する可能性がある場合には、そのリスクについても契約前に確認しておくことが大切です。
③ 法定福利費
従業員を雇用している場合、健康保険、厚生年金、雇用保険などの事業主負担があります。
リーフレットでは、算出した労務費に法定保険料率を掛けて法定福利費を算出する基本的な方法を紹介しています。
「賃金だけ払えればいい」ではなく、雇用に必要な社会保険などの費用も含めて考えることが大切です。
④ 建退共掛金
建退共に加入している場合は、就労日数に応じて掛金を見積りに計上します。
リーフレットでは、証紙320円を就労日数分見積もる例を示しています。
⑤ 安全衛生経費
現場で安全に仕事をするためにも費用がかかります。
例えば、こういったものです。
- 保護帽
- 墜落制止用器具
- 保護メガネ
- 安全靴
- 手袋
- 安全チョッキ
- 空調服
- 熱中症対策用品
安全衛生経費は、現場ごとに必要な費用を積み上げる方法のほか、自社の実績をもとに算出する考え方もリーフレットで紹介されています。
⑥ 共通仮設費
工事を行うために共通して必要となる仮設関係の費用です。
工事内容に応じて、必要な費用を確認して計上しましょう。
⑦ 現場管理費
現場を管理し、工事を進めるために必要な費用です。
現場管理にかかる人件費や交通費、通信費、保険料など、工事を進めるために必要となる費用があります。
⑧ 一般管理費・会社経費
事務所の維持費や事務用品費など、会社を維持して仕事を続けていくために必要な費用です。
これらを計上しないまま仕事を続ければ、結果として会社の利益や労務費を削ることになってしまいます。
ポイント
「工事そのものに直接かかる費用」だけではなく、「その工事を安全に、会社として継続して行うために必要な費用」まで考えて見積りましょう。
5.一人親方も「必要経費」を忘れずに
一人親方にも、今回の取り組みは関係します。
一人親方の場合、会社員や雇用されている職人とは違い、自分自身で負担している費用があります。
- 建設国保
- 国民年金
- 一人親方労災
- 安全衛生経費
- 建退共掛金
- その他、仕事を続けるために必要な経費
リーフレットでは、一人親方の法定福利費は本人負担とされ、見積書の内訳明示の対象にはなっていないものの、その相当額を処遇改善のために請求・確保する必要があるとしています。
例えば建設国保や国民年金について、月額の負担額から1日当たりの金額を算出し、法定福利費相当額として労務費に上乗せして請求する考え方が紹介されています。
また、一人親方労災についても、年間保険料を日額に換算して就労日数分を計上する方法が示されています。
大切なのは、
「自分は実際に何にお金を払って仕事をしているのか」
を一度洗い出すことです。
そして、その金額を根拠を持って見積り・請求に反映していきましょう。
6.工期も「適正な見積り」の大切な要素
金額だけでなく、工期も適正に設定することが重要です。
今回の改正では、通常必要と認められる期間より著しく短い工期での契約が禁止されています。
工事の見積りを作るときも、単純に「施工する日数」だけを考えるのではなく、
- 工事の準備
- 実際の施工
- 後片付け
- 資材の調達
- 安全確保
- 現場の条件
- 天候などによる影響
などを考えて、無理のない工期を設定することが大切です。
「この金額ではできない」と同じように、「この工期ではできない」と伝えることも、適正な仕事をするために必要なことです。
7.工事途中で条件が変わったら、そのままにしない
工事を始めてから、
「追加の作業が発生した」
「材料価格が上がった」
「当初聞いていた施工条件と違った」
ということもあります。
そんなときに、追加工事を無料で対応したり、自分たちだけで負担したりしていないでしょうか?
これからは、工事の内容や条件が変わった場合には、再見積り・再契約を求めることも意識しましょう。
今回の制度では、契約前に資材価格などの上昇リスクを通知する仕組みや、資材価格高騰時の請負代金などの変更方法を契約書に記載する仕組みが設けられています。
もちろん、すべての追加費用が自動的に認められるということではありません。
だからこそ、「何が変わったのか」「どれだけ費用が増えたのか」を見積書などで明確にすることが重要になります。
8.まずは自分の見積書を見直してみよう
いきなり完璧な見積書を作る必要はありません。
まずは、できるところから始めましょう。
CHECK 1
今使っている見積書を確認する
労務費、材料費、法定福利費、安全衛生経費などが、きちんと分かれているか確認してみましょう。
CHECK 2
労務費を計算し直す
「今までこの単価だった」ではなく、適正な賃金を確保するために必要な労務費はいくらなのかを確認しましょう。
CHECK 3
抜けている経費を探す
建退共、安全衛生経費、共通仮設費、現場管理費、一般管理費など、今まで計上していなかった費用がないか確認しましょう。
CHECK 4
「一式」を減らしてみる
できるところから、材料費・労務費・経費などを分けて、内訳を明示していきましょう。
CHECK 5
追加・変更があったら再見積り
工事途中で条件が変わったら、そのまま無料で対応するのではなく、追加・変更分を見積り直す習慣をつけましょう。
9.適正な見積りは、建設業の未来につながる
ここで、もう一度考えてみたいことがあります。
見積書を細かく作ること自体が目的ではありません。
大切なのは、その先にあるものです。
適正な見積り
↓
適正な工事金額
↓
適正な労務費・賃金
↓
職人の処遇改善
↓
若い人が建設業に入ってくる
↓
担い手不足の解消
現在の建設業は、就業者の減少や高齢化、賃金・労働時間など、さまざまな課題を抱えています。
だからこそ、「仕事を取るために、できるだけ安くする」という競争から、「必要な費用をきちんと積み上げ、適正な価格で仕事をする」という建設業界へ変えていく必要があります。
適正な見積りは、自分の会社や生活を守るためだけのものではありません。
建設業で働く人の賃金と処遇を改善し、これからの建設業を守るための取り組みです。
東京土建台東支部からの呼びかけ
仕事を頼まれたとき、まず考えてみましょう。
「この仕事には、本当はいくら必要なのか?」
労務費、材料費、法定福利費、安全衛生経費、建退共、現場管理費、一般管理費――。
一つひとつ積み上げて、根拠のある見積書を作る。
そして、適正な労務費・必要経費・工期を「請求要求」していく。
一人ひとりの見積りを変えることが、建設業界全体の価格と賃金を変えていく力になります。
東京土建台東支部も、組合員のみなさんと一緒に、
「安ければいい」という建設業界の商慣習を変え、適正な価格で安心して働き続けられる建設業界をつくる取り組みを進めていきます。
2026年度版「見積り作成リーフレット」を活用してください
「見積りを変えたい」と思ったら、まずはここから。
労務費の計算から法定福利費、安全衛生経費、建退共、一人親方の必要経費まで、2026年度版リーフレットで具体的な見積り方法を確認できます。
今使っている見積書を手元に置いて、リーフレットと見比べてみてください。
「入っていない経費はないか?」
「労務費はこれでいいのか?」
「一人親方として、自分が負担している費用をきちんと反映できているか?」
まずは一つずつ確認してみましょう。
▼ 2026年度版「見積り作成リーフレット」はこちら
